The Route #5「anna magazine編集長の取材日記」

会話は芸術だからね

anna magazine vol.12 "Good old days" editor's note

Contributed by Ryo Sudo

Trip / dec.06.2018


「会話は芸術だからね」


9/20
Anchorage

やっと日記の書き方を思い出してきた。
いつもは旅の記録用に撮影した携帯の写真を見ながら書いていたんだ。
事実だけを淡々と書く感じに憧れるのだけど、どうしてもいろいろ付け足したくなる。
で、時間がかかる。とはいえ、文章でも筋トレでも、習慣になるまで毎日頑張ればそれなりにはできるようになるってことはわかった。

20代の頃に夢中になって読んだ、沢木耕太郎さんの「深夜特急シリーズ」は、昔の体験を思い出しながら書いたと思われる第三便はドキュメンタリーというよりファンタジーの要素が強くなる。つまり、人の記憶はそれほどあいまいだってこと。よく考えたらたった数時間前のことだって正確には覚えていないしね。とにかく、思いつくまま自然に書くというのは、意外と難しいものだ。毎日さらさらとブログを書き続けるブロガーを尊敬する。

そういうことに気づくのに3日かかった。
3日坊主って言葉はやはり正しい。逆にいえば、なんでも3日続けることが大切だってことだ。

朝ごはんはオバマさんも訪れたというアンカレッジの人気ダイナー“city dinner”。すごい人気だった。ややヴィーガン的な、ヌードル・モーニングをチョイスする。やきそば味のパスタという感じだったけど、アメリカ食にうんざりしていた僕にはとても良かった。もちろん大きな皿いっぱいにパンケーキを敷き詰めたプレートも魅力的だったけど。



朝食後は目抜き通りを歩いてみることに。ギフトショップがたくさん並んでいて、これがどこもとても面白い。おみやげ屋というと昔は必ず感じた「信用できなさ」が抜群だった。マトリョーシカにもトーテムポールにも惹かれたけど、悩んだ末、古いアラスカのナンバープレートを購入。老舗のアウトドアショップはカーハートが圧巻のラインナップ。とはいえ、サイズが大きすぎて、買えたのはニットキャップのみ。

アラスカ博物館は素晴らしい。



アラスカという地域全体をテーマにしていて、オールド&モダンが玉石混交の展示が面白かった。何より、ちょうど疲れないくらいで見て回れるスケールがいい。展示の内容はもちろんだけど、「スケール感を合わせる」ということは、どんなことにおいても非常に重要なファクターなんだ。ひとつひとつ展示の見せ方がとても面白い。エスキモーとかトーテムポールとか、とてもありふれたモチーフなのに、切り口と見せ方が独特で、まるでおしゃれなカフェでコーヒー選ぶみたいなカジュアルな感覚でアラスカの文化を知ることができる。編集力と見せ方って、とても大事だ。



スーパーマーケットやローカルなカフェなどを回る。道は京都のような碁盤の目スタイル。ほとんど迷うことはない。目抜き通りにずっと先まで信号が見えている。これならどんな人だって遠近法を思いつくだろう。



カメラマンの友達が紹介してくれたグラフィックデザイナーの女の子の取材で、やや交渉が難航する。少し警戒しているみたいだった。

「今はハイキング中で、夜はフィアンセが来るから難しいかも」

よく考えたら当たり前だ。日本のほとんど知らない雑誌のそれも男だけの取材クルーが当日いきなり家まで来るのは怖いよ。

フォーを食べながら作戦を練ることにした。
関係ないけど、「スープ」がある食べ物って最強だ。
どれだけやさぐれている時でも、あたたかいスープを飲めば、とりあえず気分が満たされる。

結局カメラマンの粘り強い交渉で取材をOKしてくれた。やっぱり彼はすごい。相手の今の状況をイメージして、気づかう。まずは相手の話を聞くのが得意ワザ。

「ハイキング疲れたよね。楽しかった?」とか。
「どのくらい歩いたの?」とか。

何より素晴らしいのが「共感するだけじゃダメで、押すときは押さなきゃ」って考え方。「いろいろな女の子が候補だったんだけど、あなたが一番この雑誌のイメージにぴったりだったんだ。だからどうしても取材させてほしい」と伝えたら、あっさりOKが出たらしい。下手に出るだけじゃなく、要望はできる限りストレートに伝える。その駆け引きが、彼のセンスだし、写真の強さにも表れているなと思う。

「会話は芸術だからね」

…かっこよすぎる。

1時間ほど走ったスキータウンに住んでいた彼女は、最高だった。聞けば、女性だけのサーモン漁船に3ヶ月乗っていたり、スキーにハマってこの場所に住み着いてしまったり。夏は入り江で潮の満ち引きに乗るサーフィンや、山をひとりでトレイルしながらベリーとマッシュルーム狩りを楽しむ。



そんな感じの自然児系エクストリームガールなのに、職業はアラスカをモチーフにモダンなアートに流し込むグラフィックデザイナーだという。



まるで八ヶ岳の山荘のような家にひとりで住んできる彼女は、僕が今まで見たことのないタイプだった。



近くの滝まで一緒にトレイルする。初めてのアラスカの大自然の中に包まれて、不覚にも涙が出そうになる。カメラマンとはいつの間にか古い友人のようになっていて、僕たちにも心を開いてくれたようだった。よく聞いてみたら、警戒していたのではなく、フィアンセを入れるのもためらわれるような散らかった部屋が撮影に耐えられるとは到底思えなかったらしい。それを聞いた僕らは、もちろん、裏庭に無造作に置かれたカヤックやら、花瓶に使っている古いスキーブーツなんかを興味深く写真におさめさせてもらった。



昨日と今日の取材で、ここに住む人たちのあたりまえの風景をあれこれと聞くことで、アラスカのことを理解するための入り口は見つけた気がする。やっぱりそこに住む人々、そしてその人たちにとってのあたりまえの日常に触れられることが、旅のだいごみなんだと思う。



ディナーをしながら映画を見られるという少し変わったシアターレストランで、明日からフェアバンクスに向かうもうひとつのチームと夕食。とめどなく「今日の出来事」を話しながら、同じ街を見ても、人の視点や考え方で印象はこれほどまでに違うものなんだなあと、実感する。

前回の旅でも登場した「プロ給油師」は、相変わらず鮮やかな給油スタイルを披露しつつ、今回も運転に勤しんでいる。まっすぐな一本道の多いアラスカが、とてもお気に入りのようだった。

18時以降はセルフチェックインという、セキュリティの甘い老舗B&Bに宿泊。
楽しい1日だった。

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