L.A. — SANDIEGO

こんなにも自由で幸せな気分になれるのはどうして?

Contributed by anna magazine

Trip / jan.05.2018



動くものが好きだ、と思う。空高く雲の中まで飛んで行く飛行機や揺れ動く電車、突然耳に入ってくる船の汽笛にもドキドキする。動いている、は生きている、と近い存在なのか。乗り物に乗り、これから向かう新しい世界や景色を想像するだけで、空想が膨らみ、歩幅も話す声さえもどんどんと大きくなる。以前、カリフォルニア生活を終えてオアフ島へ移り住んだ友達に話を聞いたとき、悲しいことがあってクルマで走り出してもたった1時間で道が終わってしまう、と嘆きの声を聞いたことがあった。行き止まりのない、どこまでも続く道を走っているだけで、こんなにも自由で幸せな気分になれるのはどうしてなんだろう?








「全米を網羅するアムトラックの旅は楽しいよ」と、アメリカ生活が長い人に話を聞いたとき、思わず前のめりになってしまった。ニューヨークからボストン、シカゴからワシントン、行ったことがなくてもその名を聞いたことがある。どの街にもぼんやりとストーリーが見えて、想像するだけで楽しくなる。ならば、その電車にぜひ乗ってみたい!

選んだのはカリフォルニアのビーチ沿いを走る路線で、その名もパシフィックサーフライナー。サンフランシスコからスタートして、サンディエゴまで下るこの電車は、ロサンゼルスを過ぎてしばらく経つとビーチ沿いを延々と走り続ける。サーファーにとっては憧れのトラッセルズやサンクレメンテ、さまざまなビーチを目前に電車は走る。サーフボードを持ったローカルやビーチでまどろむ人々の姿をガラス越しに見ているだけなのに、まるで物語のように時間が過ぎていく。サンフランシスコからサンディエゴまで、随分と長い距離の割に、のんびりと進む電車もなんだかかわいい。車内には、ギターを持った孤独なブルースシンガーや、バックパックを背負ったカップル、遠方から訪れたファミリーなどさまざまな人がいて、彼らの想いを自分のことのように想像するだけで、旅が数倍も楽しくなる。






停車する駅の名は、サンルイスやサンタバーバラ、サンジュアンなど、“San”の付く場所が多い。教会のSaintから付けられた街で、どの場所にも必ず教会があった。もちろんそれも素敵だけど、何度もサンと発する車掌の声を聞くだけで、カリフォルニアはやっぱり太陽に愛された街なんだと実感してしまう。L.A.のユニオン駅の近くには、ロサンゼルス発祥の地として知られるオルベラ街があり、この地に暮らしていたメキシコ人の明るい声が聞こえる。途中下車したSan Juan Capstitranoは、まるで夢のような場所。歌に合わせて踊る人の姿や笑い声が響き、うれしさのあまり、鳥のように遠くまで飛べる気がした。




アムトラックの食堂で食べたホットドッグは少し固くて、せつない気持ちになったけど、向かいの席のお兄さんの笑顔が最高で、窓辺で海を見ながらビールで乾杯してしまった。サンディエゴからの帰り道、L.A.の街の近くで見かけた幻想のような風景は、旅の終わりを示唆しているようで少し寂しかった。さまざまな感情が交差する電車旅の中で、記念に持って帰ろうと思っていた路線図は、気がつくとなくなっていた。カリフォルニアにすっかり浮かれて帰ってきてしまったのだな。そう思いながら旅を思い出す自分は、もうこの地を離れて1ヵ月も経っているのに、なぜかまだ昨日のことのように、カリフォルニアを思い出せている。






写真:Hayato Masuda /文:菅 明美

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