The Route #8「anna magazine編集長の取材日記」

「プロ給油師、登場」

anna magazine vol.11 "Back to Beach" editor's note

Contributed by Ryo Sudo

Trip / may.21.2018

 


「プロ給油師、登場」


3/26。

10時間近く眠ったから、今日は体調がいい。
みんなの機嫌も上々だ。

朝食はワッフルにする。真っ赤な外観が印象的な”waffle iron”。営業時間は、朝6時から14時までだ。
こんなにあからさまに朝型の国ってアメリカの他にもあるんだろうか。夕方16時頃にはもう「そろそろ夜ごはん行こうよ」と言われるくらい、時間が前倒しらしい。お客さんは年配の白人ばかりだった。働いているおじさんのひとりが、ディズニーランドの「カリブの海賊」の人形みたいだった。



僕たちはそれぞれスマホを片手に黙々とワッフルを食べていたのだけれど、他の席のアメリカ人たちは本当によく話す。食事中なのに一瞬も言葉が途切れる事はなく、ずっと会話を続けている。



外国語にはとても長尺な言語が多いと思う。
日本語はよく難しい言語だと言われているけど、もしかしたら本当は世界で最も端的な表現が可能な言語かもしれない。例えば「木漏れ日」は、英語で表現しにくい代表的な言葉のひとつだ。無理に英訳するなら“Sunlight filtering down through the trees.”とか。日本語なら一言なのにね。
ひとつの状況を表す表現が何種類もあるし、ぼんやりとした全体の状態を、たった1ワードで表現できる。
まるでLINEのスタンプだ。

ずっと昔、日本代表の監督だったジーコの試合後インタビューを見ながら、「良く話すなあ、あれ、翻訳するとそれだけ?」とよく不思議に感じていた。



今日はルート66を走る。

道中、本当に目まぐるしく景色が変わる。セリグマン、ハックベリー、オートマン、キングマン。それぞれの街はとても小さくて、本当に、まばたきしている間に風景が変わってしまう。
ルート66はとても古くて、今は観光客以外ほとんど走る人はいないけど、昔は「自由」とか「希望」とかの象徴だった道だ。

映画「カーズ」の舞台になったと言われているセリグマンは、まるでテーマパークみたいな街だった。ハックベリーは観光用に演出された表側よりも、手入れが行き届いてない場所にリアリティーがあって面白かった。キングマンの”Hisoric Kingman PowerHouse”は1番の見所だ。

この道が開通した1920年代とか30年代は、車はとても壊れやすく、ルート66を走って西へ向かう行程は想像を絶するくらい厳しかったのだという。「GO WEST!」は、人生をかけた、タフな選択だったんだ。



ところで、ルート66のようにあまりにもメジャーで知りつくされた場所は、歴史的な背景などの知識や思い込みが全くない若い写真家が撮影したら、きっと視点が変わって面白いだろうなと思う。

取材にしても、撮影にしても、「思い込み」というのはとてもやっかいなものだ。思い込みを一度捨てないと、どうやったって「いつものような感じ」にしか物事が見えてこない。だから「対象との距離感をどう設定するか」がとても大切だと思う。あたり前の風景だったり、何度も取材を繰り返された対象だったとしても、距離をほんの少し変えただけで、まったく違った価値が見えてくる。



ロードトリップというのはどれだけ周到に計画しても、スケジュールが押していく。

anna magazineの取材はたいてい途中から急ぎ足な感じになるのだけど、慌てているのは僕だけで、ひとり焦る。

ひとつひとつの対象をていねいに取材できるよう、しっかりと行程を組むのが今風の雑誌の王道編集スタイルだけど、僕はあまり得意じゃない。言い訳かも。
きちんと予定された取材をベースにしたアウトプットはとても美しいけれど、僕は狙い通りのものより、ライブ感を大切にしたいと思っている。anna magazineの誌面の躍動感を支えているのは、そうしたライブな状況を生み出す「ギリギリの行程」そのものなんだと思う。



Hi Sahara Oasisで給油。

おなじみの弊社スタッフの少し得意げな給油スタイル。
もうすっかり「プロ給油師」だ。
つまり、人はどんなことにでも慣れることができる、ということだ。ただし、運転については大いに再考の余地を残している。

ガソリン5ドル、コーラ3ドル、おまけに店員の態度がひどかった。
ここで給油しないと次まで何百マイル、みたいな場所だから仕方ない。



途中立ち寄ったバグダッドカフェは、本当に「何ひとつ」ない場所だった。店員に聞いてみたら、ここ訪れるのはフランス人が多いらしい。
映画「バグダッドカフェ」はドイツの作品なのに、どうやらフランスで人気だったみたいだった。

あれこれ思い通りになることは少ないけど、思いがけない時に「いいこと」が起きることもよくあることなんだ。



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